タイトル【異次元の神々】短編 小説家になろうに掲載中

 少女は気付くと何故か煉瓦道の上にぽつんと立っていた、記憶は無かった。服を着ていることは気配で分かったので、確認すると確かに白の夏用セーターに紺のミニスカートさらに下着を着用していた。帽子等は無かったが髪の状態は分からなかった。顔を触ってみたが皺は全く無かったし美醜は判断できなかった。さらに他の場所に意識を送ったが何処にも皺は無かった。ついでに靴下と靴を確認すると色は上から白と黒だった。もう一度確かめたがやはりとんと記憶は無かった。なのでとりあえず歩き出すと、直に大通りに初めて人を見付けた。邪魔なほど大勢居たが殆どは少女に気付きもしなかった。単純な本能が告げていた、ここは何処私は誰と。暫く雑踏を楽しそうに眺めていたが、その横を通り過ぎて一人の女性が建物のネープルスイエローの外壁に凭れると少女にちらと目を向けた後に休憩に入った。その女性は行動力がある上に信頼が置けそうだったので思い切って少女は、ここは何処なのかと尋ねたがもう一度訪ねる頃には表情で言葉が通じていないことを悟った。女性が少女には分からない言葉で、私には手に負えないわごめんなさいと去った後に偶然だったのかと考え、一応は他の危険そうでない大人に話し掛けたが偶々最初の女性と言語が違った訳でもなくどれにも言葉が通じなかった。二時間半後諦めて街の遊具などは無いほぼ樹木に重点を置いた小さな公園のベンチに腰掛けていると、気付くと子供たちが向かっていて顔を上げると一番前の子がすごく悪そうな顔をしていた。すぐに立ち位置と態度でその子が首領格だと分かった。子供らはなにやら喋り掛けて首領格の子だけ幼い悪意で笑っていたが他は控えめだった、少女にはなにをしているのかもなにも分からなかったが、それを理解した子供はんっんっんっという言葉と指先で頭の上の所を少女のと自分のとを示し続けると、やはりなにを言いたいのかとなったが少年たちは髪の色が金色ではなく茶色であることを笑っているのであった。どうでもよくなって立ち去ろうとした背後から手が伸びると何故か下の下着が露出していたので、我を忘れた少女は首領格の少年を殴り飛ばして、馬乗りになった後、半殺しにするつもりがいつの間にか少年の顔は変形していて、死んだかもしれなかった。子供たちは理解も追いつかず泣きながら何処かへ行ったが、少女は邪魔者の居なくなったベンチに座って少年が息をしていないことに気付いた。

 警備兵に連れられて地下の牢屋に入れられた少女は、三日間汚いようで全く壊れそうにないベッドにひたすら腰掛けていたが、来客があって、少し身分の高い貴族の青年だった。興味本位で少女を自分の女の一人にしようかと見に来たのだが、普通以上には気に入ったようだった。すぐに牢を出されすぐに普段は固く閉ざされた門の向こうの貴族地区に招待されたが、屋敷というよりは綺麗なだいぶ大きなただの庭付きなだけの庶民の家だった。白髭で威圧しつつとても瞳の澄み切った父親とその妻に紹介されると――そこで青年の名前がライトであると説明され、少女がミリィと呼ばれることが決まった――部屋を宛がわれた少女は、突然豪華になった染み一つない布団と枕で一夜過ごすと、次の夜にライトに迫られて仕方なく性交をして、中出しをされた。半月後に丁度お姫様の結婚式があってパレードを見物したが、お姫様はとても可愛らしくて鏡で見た自分のいたって普通の顔とは全然違った。

 その家で執事とライトが会話しているのを見るのは一度目ではないが、これほど嬉しそうなのは初めてだった。隣国との初戦に勝利したという話をしていたのだが少女には相変わらず言葉が通じなかった。住人に加えられて次の日に、ずっと寝ていたいと身振り手振りで解説したのだが、勝手にさすがに暇そうと感じていたのかライトが観劇に少女を誘った。貴族地区の隅にある大劇場は満員だった。並んで座ると終始悲劇的な展開の劇が始まったが、中々面白いなと半ば見入っていると、案外唐突に終わってしまって余韻に浸っているところを横の連れがそれを眺めていることに気付いて、あ、いたんだと思った。その夜にもう一度セックスをしたが、あまりなにも感じなかった。執事とライトが会話しているのを見るのが何度目かは少女には分からないが、様子が異様というか異常というか変であることは瞬間的に分かった。その後の説明であの父親が戦死したことはなんとか認識したが、ライトは葬式の予定で忙しそうだった。次の日に貴族地区の左端に妙な壁画を少女は見付けた、偶然ライトがそれを見付け後ろからやあと声を掛けて横に立ち少し眺め、自然に。「この終末予言の壁画を見ていたのか、小さい頃は少し見ただけで怖かったよ、今は全然だけどね」少女は半ば聞き流してなにかを思い出しそうになっていたが、なぜか思い出してはいけない気がして、星があまりにも簡単に虎に似た巨大な化け物に粉砕される画を思い出しながら急いでその場から逃げ出した。

 一年後のその日にいつもの食べ切れなさそうな食事から肉料理が明らかに減ったことを、その日の朝に知った、魚が完全に消えたのは少女にとって残念だった。さらに劇の公演が無くなったのも一応残念ではあった。数日後にライトが言葉が通じないミリィだからと前置いてから、戦局が不利なこと、国自体が負けるかもしれないこと、それに終末予言の通りでは全然ないが終末予言のように世界が滅ぶかもしれないと滅亡については冗談ではあるが話した。さらに数日後に貴族地区の学校の演劇クラブが大劇場で上演するのをライトと見に行った少女は、いつもと違うけれど楽しかったと思った。次の夜に庭のベンチで星空を眺めていた少女の横に座ったライトは、暫くして敗戦続きからの不安や自分の行く末からのそもそもの生き死にからの不安や、塞ぎ込んでなにもしない母親への愚痴や色々なことを話したが、全てが負の言葉であることに気付いてすぐに謝った。少女は徐に手を伸ばすと、ライトの頭を撫でてすごく自然ににこっと笑った。二ヶ月後に少女は王城に避難させられた。集められた部屋ではすでに、泣いている子供たちを母親が慰めていた。夕方になると母親同士が、勝算はあるという話と実際はどうなるか分からないという話と夫たちが負ける訳がないという話をしていたが、なにが起こっているか分からない少女は夜になると仰向けになっていつもの時間に眠った。朝日で目を覚ますと、嫌な気配がしてそれについて考えていたが、そこに兵士が踏み込んできて無抵抗な数人を切り殺し制圧すると女性たちへの凌辱が始まった。少女はまだ嫌な感じがしてひたすらにそれを考えていたが、無理矢理立たされると胸を揉まれ下卑た顔を見た瞬間、指で男の目玉を綺麗に取り出すと付いてきた視神経を摘まんだ千切った。暴れる兵士が予備の短剣を少女の左肩に突き刺したが、少女はそれを引き抜くと空洞になった片目を押さえる兵士の首にそれを突き刺して貫いた。すぐさま密集された少女は、さすがに死を覚悟したが、その時徐々に光が失われていくのを少女も感じていた、室内に静寂と動揺が訪れた。光一つ無い中で少女は全ての記憶を思い出していた、異次元の神との戦いから逃げ出しこの星で少女として完全に気配を消していた記憶。確実に慌て続けるがほぼ身動きしない人々の中でひたすらに冷静に、少女は星の外、宇宙空間に空間転移した。蓄えた力の減少を感じる少女の背後で、太陽光線を完全に遮断するほど巨大な、虎に似た化け物の姿をした異次元の神が星を一撃で粉砕した。その間に逃げ出そうとする少女を異次元の神の力が完璧に捉え少女の圧縮が始まったが、少女のお腹に少女はなにかを感じていた。それはライトとの間にできた子供だったのだが、その子供の異次元の神としての本来の力が流れ込んできて少女は昔の戦いで消耗した力の殆どを回復していた。少女の姿を捨て異次元の神としての実際の姿を取り戻した少女は、数年前の自らの戦いから変わらないほど弱ったままの神を全力で圧縮すると、木端微塵に砕いて宇宙のちりにした。一息つくと異次元に帰った少女は異次元の神々の一員として一応は出産をしたのだが、二人がどうなったのかまでは分からない。